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ずらりと並ぶ肉の皿。申し訳程度の野菜。二人でボックス席に座っているというのに、皿は机からはみ出さんばかりに大量に置かれていた。それに、どれも上ロースだとか、上ミノだとか、ゾムはそれしか知らないのかと思うくらい、上のついた高い肉しか頼まなかった。
「あ、これ五人前追加で。」
そもそも、二人だというのに必要以上に注文しているのは、おかしいと思わないのか。というか、注文するにしても、まず机の上のものを食べ終わってから追加で注文してほしい。残してしまったらどうするというのか。
「そんなに頼んで大丈夫なんですか?」
店員さんに聞こえないように、小さめの声でそう聞いた。食べ放題のお店でもなければ、チェーン店のような雰囲気でもないため、いくら田舎出身のAでも、ここが良い焼肉屋さんだということは一目瞭然だ。その中でも良いお肉ばかり頼んでいるのだから、お財布の心配ぐらいはするだろう。怒涛の勢いで頼むから、未だ漂う気まずさを突き破り聞くほかなかった。
「お嬢、敬語。」
ゾムが口を開いたと思ったら、放たれた言葉はそれだった。質問に答えるつもりがないどころか、そんな指摘までされてしまっては、あと少しでぷちりと堪忍袋の緒が切れる寸前。この人は、わざと怒らせようとしているのだろうか。そんなふうにも思えたけれど、仲直りをしてこいと言われたのに喧嘩をするなんて良くない、とグッと心を落ち着かせた。
「⋯⋯そんなに頼んで大丈夫なの?」
Aは平常心のつもりだったが、平常時よりもムスッとした顔をしていた。ゾムはそれに大して興味も持たず、せっかくの上ハラミとタン塩を普通の焼肉みたいに一気に網の上に並べている。これは普通の焼肉なんかではなく、高級焼肉なんだから、それ相応の丁寧な焼き方をした方が良いんじゃないか、と思うのだけれど。
「大丈夫やって。お嬢も食うやろ?」
「え?食べま⋯⋯る、けど、こんなに食べ切れるかはちょっと⋯⋯。」
「大丈夫、大丈夫。」
分からない、という言葉を飲み込んだAに、ゾムは根拠の無い大丈夫を繰り返した。ジュワジュワと音を立てて、肉から滲み出たジューシーな脂が網の上からこぼれ落ちていく。たちまちテーブルを香ばしい匂いが包み込んだ。思わず、ゴクリと喉が鳴る。
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作者名:月出里 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2024年3月12日 22時