どんより ページ35
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夏だというのに、台風の影響で天候が悪くなる。毎年のことだし、真上を通過するわけでもないから、大雨が降るくらいに留まっていた。
空がどんよりしているのと同じように、Aも暗い表情をしていた。
「やってしまった⋯⋯。」
あれから、Aはゾムとまともに話すことが出来ていなかった。助けてもらったお礼も言えていないのに。あのとき、怖くて拒絶してしまったから、きっとゾムを傷つけた。それを謝りたくて何度も探したものの、一切見つけることが出来ず。さっき見たんやけどなぁ、とか、あれ、さっきまでここおったよな?とか、仕事はちゃんとやってるみたいやで、とか、周りの人に聞いてもそんな返事ばかり。
話したいのに、見つけられない。結局、プレゼントも渡せていない。このままではいけない、と気合を入れるために自分の頬を軽く叩いた。
「ゾム。お前お嬢を避けてるんやって?」
コネシマは、自分の部屋に隠れているゾムに確かめるように聞いた。Aが、コネシマの部屋に入ってこないと踏んでのことだ。
「いや、別に避けてるっていうか⋯⋯。」
「ほぉん?」
「この前、怖がらせてもうたから⋯⋯。」
ゾムは、困ったように言葉を発した。それで、押し黙る。コネシマは、結局避けてんねやろ、と内心思ってはいたが、その追い討ちのような言葉を飲み込んだ。
「まぁ、それはお前らの問題やからええわ。」
パタパタと雨が窓を叩く。コネシマは、ゾムを問い詰めることなく話題を変えた。
「そういや、プレゼントもらったか?」
それに対するゾムの反応はない。むしろ、怪訝そうな顔をしている。その様子を見て、コネシマは特に焦るでもなく言った。
「あ、これまだ言ったらあかんやつやったか。」
雨の音がやけに大きく響いた。湿度の高い空気が、雨の匂いを伝えている。それは、柔らかく、ほろ苦いような、どこか落ち着くものだった。雨はまだ降り続いている。しかし、先程に比べて弱くなっていた。小雨は地面を優しく叩く。そこから伝わる空気が、優しく背中を押した。
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作者名:月出里 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2024年3月12日 22時