第1章 夜の街 ページ1
ギラギラとあちこちでネオンが光るここは、夜の街として名高い歌舞伎町。
綺麗なように見えて汚いこの街で、私はキャバ嬢をやっていた。
今日も同伴して、汚いおじさんの相手をしなければいけないと思うと憂鬱になる。
こんな憂鬱になるならばやらなければ良かった。そう、何度も思った
けれど現実そうはいかなくて、何がなんでも続けなければならなかった。
私の両親は早くに離婚していたため、私は母子家庭で育った。
そんな母は、実に男癖が悪い。
私が学校から帰ってくると、家に知らない男性がいるのは当たり前。しかも、男性は日によって違う。おまけに聞きたくもない行為の音と母の喘ぎ声が、家に響いていた。
こんな家に居たくない。そんな思いがあった私は、高校卒業と同時に家を出てお金を稼ぐためにこの仕事を始めたのだ。
「麗ちゃん、お待たせ」
麗というのは、私の源氏名。そして、声を掛けてきた人は私のお客様。
「全然待ってませんよ?早く行きましょ?」
「そうだね、…今日ってアフターできるかな?」
「分かんないです…お店着いたら確認してみますね」
こんな会話を繰り広げながらお店へと向かう。
汚いおじさんに触れるのも、疲れるほど愛想を振りまくのももう慣れた。
一度歌舞伎町の人間になってしまえば、こんなこと当たり前になる。
普通の生活にはもう、戻れなくなってしまった。
「…行きたく、ないな、」
もう捨てたと思っていた普通の心から出た本音は、何事も無かったかのように喧騒に飲まれて消えた。
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作者名:葵 | 作成日時:2024年3月12日 0時