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『わぁ……!すごい!!』
チーノがAを連れて来たのは城内のバルコニーだった。
時刻は明朝。太陽こそ顔を出してはいないが、地平線はオレンジ色に輝いている。
真上の空はまだ夜中で、朝焼けと淡く混ざり合っていた。
美しい空と、まばらに明かりが灯っている城下町は、まるで物語の中のようでAは感嘆の声をあげた。
『キレイですね』
「そうやね」
カチッとチーノはライターに火を点けた。
いつの間に取り出したのか、彼は煙草を一本咥えると、静かにふかした。
その横顔を、Aは自然と目で追ってしまっていた。
「ん?どしたん?」
『あ、いえ……』
フーッと紫煙を吐きながら、チーノは手すりにもたれ掛かった。
『……チーノさん、助けに来てくれて、本当にありがとうございました』
「それは何回も聞いたで」
『それと……ごめんなさい』
「んー?」
『本当は、コネシマさん達と行くべきでしたよね。なのに、私の我儘に付き合わせてしまって……』
城にいたから、彼らの仕事がどれだけ大切か分かっていたのに。
彼らがいるから、国民は安心して生活することができる。
その為にも、悪い人たちを捕まえて治安を守るのが、彼らの仕事なのに……
『(私は、その足止めをしてしまった)』
罪悪感に苛まれながら、Aはチーノへ頭を下げた。
すると、彼は何でもないように笑った。
「別にええよ。実際コネシマさん達だけでなんとかなったんやし。だから、あんま気にせんといて」
ポンポンと優しくAの頭を撫でた。
「……なあ、Aのおった国ってこっから見える?」
『え?』
「そういや聞いた事なかったなと思って。教えてくれへん?」
『そうですね……』
言いながら、Aは遠くの森の先を見つめた。
あの森のずっとずっと先、ここから遥か遠く離れた場所に、Aの祖国がある。
『あの森の……ずっと先に、ミルエイ国があります。ここからでは……ちょっと見えないですね』
「あー、確かに初めて会ったの、あの森ん中やったな」
『今考えると、ちょっと恥ずかしいですね……』
困った様に笑ったAを見ながら、チーノは頬杖をついた。
「ここに来る前って、どんな生活してたん?」
『穏やかな毎日でしたよ。大変な事もありましたけど、辛いと思ったことはありません』
柔らかい表情を浮かべるA。
その顔から、彼女の言葉に嘘がないことは分かる。
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作者名:双葉ちほ | 作成日時:2021年7月3日 22時