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『いいえ。もう何もしないで見てるだけは嫌だったんです。私はそれで、沢山のものを失いましたから……』
そう、燃え盛る国も、必死に戦う大好きな侍女も、Aはただ見つめることしかできなかったのだ。
手を伸ばすこともせず、消えていく姿を見ているだけ。
そんな自分には、ほとほと嫌気が差していた。
逸らしていた目線を戻し、Aは再びチーノを真っ直ぐ射抜いた。
『迎えはいつになるか分かりませんから。だから、私から会いに行こうと思ったんです。まあ、結局今の今まで待つだけになっちゃってるんですけど……』
少し悲しげに微笑むA。
しかし、すぐに真剣な表情でチーノに訴えかけた。
『チーノさん、我がままだとは重々承知しているのですが……どうかこのまま、私のことは内緒にしてくれませんか?侍女との約束を守りたいんです』
「……」
チーノは口元に手を当てて、何かを考え込んでいる。
やっぱり、難しいのだろうか……と、Aが顔を曇らせた時、チーノはフッと笑って彼女の頭をポンッと撫でた。
それから、二ッと歯を見せてAに笑いかけた。
「ええよ」
『え……?』
「Aは上手に隠してたもんな。俺が言わせたようなもんや。意地悪い事して、スマンかったな」
『いいんですか……?』
「うん、ええよ」
あまりにあっさりとした承諾に、Aはポカンと呆けたまま。
そんな彼女を見つめると、チーノはクスクス肩を震わせた。
「A、実は俺な……お前がお姫さまって気づいててん」
『えっ?!』
突然のカミングアウトに、Aは大きく目を見開いた。
なぜ、いつから、どうして。と矢継ぎ早に問い詰めるAを手で制しながら、チーノはひとつひとつ丁寧に答えた。
「A、いつもすぐに飯食わんやん?なんか変やなーって思てん。確信持てたんは、牢屋の前で火ぃ点けた時や。あれ、ミルエイ国の王族だけが使える力やんな?」
『っ……』
穏やかな表情でそう言うチーノに、Aは息を呑んだ。
そんなに細かい所まで見ていたのかと、正直驚いた。
食事のことなど、無意識に近い癖だ。
まさかそれが、チーノにとってのヒントになるなど、Aは思ってもみなかった。
『なんだ……チーノさんには、最初から全部バレバレだったんですね』
自嘲するように乾いた笑いを浮かべるA。
対してチーノは、ニイッと意地悪く笑った。
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作者名:双葉ちほ | 作成日時:2021年7月3日 22時