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『(チーノさん、楽しそう)』
ケラケラ笑っている彼を見ると、Aの心も不思議と満たされた。
そんな彼に見とれていたせいで、Aは後ろから近づいてくる足音に気が付かなかった。
それはゆっくりとAの傍まで来ると、やがて彼女真後ろでピタリと止まった。
「……なあ」
声をかけられて、大げさに肩を震わせたA。
驚いて、バッと振り返るとそこに立っていたのは、緑色のフードを深く被った長身の男。
彼は、フードの下からチラリと目を覗かせ、Aを見下ろしていた。
実はこの男、書庫に本の貸し出しを依頼した張本人。
第1部隊長のゾムである。
しかし、彼と初対面のAがそれを知るわけもなく……
『(こ、怖っ……)』
ゾムのするどい目つきにAはすっかり脅えてしまっていた。
その一方で、ゾムはAの事に気付いた様でニッと笑った。
「お前、エミさんとこの司書やろ?」
『え……』
「本頼んだの、俺やねん」
パチリと瞬きをした後、Aはゾムと抱えている本を交互に見比べる。
名前こそ聞いていたものの、彼についての情報はあまり聞かされていなかったA。
とても読書家には見えず、信じられないといった表情でポカンと口を開けてしまった。
『第1部隊長、さま……?』
「おう、せやで」
いまだパチパチと瞬きを繰り返すA。
そんな彼女の手からヒョイと本を取ると、ゾムは満足げに笑った。
「いやあ、噂には聞いとったけど、マジで見れるとは思わんかったわ」
『へ?』
「この本な、めっちゃ手に入れんの難しいらしいねん。エミさん、ホンマに買ってくれたんやなあ」
本を片手に掲げて、子供のようにキラキラ顔を輝かせるゾム。
意外にも明るい表情を見せた彼に、Aは少しだけ緊張が解けた。
『本、お好きなんですか?』
「人並みにな。面白いもんが好きやねん」
楽しそうに話すゾムに、Aも思わず笑顔になった。
2人で談笑をしていると、今度は中庭にいるシャオロンが彼らの姿に気が付いた。
「あれ、あそこにいんのゾムじゃね?」
汗を拭いながら指をさす、シャオロンに連れられてチーノも顔を上げた。
ゾムの隣に立っているAを見つけると、チーノもパアッと笑顔になった。
「おーい!ゾムぅ!Aー!!」
シャオロンが大きく手を振って彼らの名前を呼ぶと、2人は揃って振り返った。
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作者名:双葉ちほ | 作成日時:2021年7月3日 22時