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Aよりも先にチーノが驚いた声を上げていた。
もちろん、Aも目をぱちくりさせていたが、そんな彼女を気にも留めず、ゾムは彼女を抱えたままニコニコしている。
「いやいやいや……ゾムさん、何言ってんすか。あんた、この後パトロールでしょ」
ヒクヒクとチーノの眉が動く。
隠しきれない嫌悪感にゾムはニヤリと笑った。
「お?なんやチーノ。随分余裕ないやん」
バチバチと火花が散りだした2人の間で、Aは困惑しながら彼らの顔を交互に見ていた。
恐らく自分が原因であることは分かるが、とても口を挟める様な状況ではない。
未だゾム腕の中でアワアワしているAを見ながらシャオロンはニヤニヤ笑っていた。
しかし、このまま2人の喧嘩に付き合っているわけにはいかない。
臨戦態勢の両者の肩をズイッと押し退け、シャオロンが言った。
「それなら、剣で決めたらどうや?丁度稽古中やし」
「「は?」」
『へ……』
ニヤッと笑ったシャオロンを前にゾムとチーノはキョトンとしていたが、すぐにお互い剣を構えた。
ようやく自由になったAはシャオロンに手招きされ、彼の横についた。
チーノは腰に差したものを、ゾムはシャオロンに手渡されそのまま軽くクルクルと手元で回していた。
『え……えぇ……』
ただの付き添いだというのに、なぜこんな大事になってしまったのか。
困り果ててしまっていると、シャオロンがコソッと耳打ちをしてきた。
「今のうちに行きや。ああなったら、しばらく時間かかるで」
そう言うと、シャオロンは隊員の1人を手招きして、またコソコソと何か指示を出していた。
少しすると、その場にいた隊員達はソロソロと帰って行った。
なのにも関わらず、彼らは一切気づかずお互いジリジリと間合いを詰めている。
もう相手の事しか見えていないようだ。
「熱くなったら、なかなか終わらんからなー、あの2人。待ってたら日ぃ暮れるで」
『でも……1人では行くなと言われているので……』
「あー、なるほどな……じゃあ、俺が行ったるわ。教会やんな?」
『は、はい!お願いします!』
未だこちらに目もくれず、勝負に夢中になっている2人。
そんな彼らを横目に、シャオロンはAを連れ出した。
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作者名:双葉ちほ | 作成日時:2021年7月3日 22時