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「……厄介な外交官やったな」
フーッと長く息を吐いて、オスマンはポツリと言った。
態度もさながら、仕事の話も彼は自分のペースで進めたがる男だった。
どうにか流されず話をまとめ、なんとか城門まで送り届け、速やかに帰国してもらった。
ドッと疲れが押し寄せて暫し立ち尽くすオスマンの顔を、チーノはヒョイッと覗き込んだ。
「お疲れ様です、オスマンさん」
「ありがとなあ」
城門を見つめたまま、どこか遠くを見つめているオスマン。
そろそろ城の中に戻っても良いのだが、何か考え事をしているのだろう。
さりげなく察したチーノは、後ろに控えていた軍人達に先に戻るよう指示をした。
城門前には、オスマンとチーノだけが残った。
しばらく2人とも前を見つめたまま、無言の時間が流れた。
「……なあ、チーノ」
「なんですか?」
「……スパイが、おるな」
オスマンの声が、やけに真っ直ぐ響いた。
フワッと風が吹き抜け、彼らの髪を揺らす。
チラと彼の横顔を見てみると、とても冗談とは捉えられなかった。
「……人攫いの話ですか?」
「それだけやない。やけに詳しかったやろ」
Aの話は、国軍幹部の中でしか共有されていない。
各軍隊長ですらも知らない、トップシークレットの話だったのだ。
それなのに……
「(いったいどこから、漏れたんやろなあ)」
まだ疑い程度の話ではあったが、間違いなくどこからか話が伝わり始めている。
こんなことは想定したくないが、この国の中に他国と繋がっているスパイがいる可能性が浮上してきたのだ。
「……チーノ、お前だけは裏切ってくれるなよ」
「どうしたんすか、オスマンさん。センチメンタル?」
「俺の思い過ごしならええんやけど……」
「それだけこの国が有名になったってだけでしょ?考えすぎですよ」
「それならええんやけどね……」
「さあさあ、仕事も一区切りついたし、食堂で甘いもんでも食いましょ!」
明るく笑いかけ、少しでもオスマンの気が晴れるようにチーノはそう言った。
グイグイと彼の背中を押して、重く固まった足をようやく動かした。
チーノのこういう部分に、オスマンは何度も助けられていた。
誰かを傍に着ける仕事の時は、いつも自らチーノを指名していた。
彼の笑顔に、オスマンは勇気を貰っていたのだ。
「そういえば、チーノこの後シャオロンと稽古やなかったっけ?
「……あ!!!!」
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作者名:双葉ちほ | 作成日時:2021年7月3日 22時